「ところでルディーン君」
特許のお話が終わったところで、アマンダさんがなんか怖い笑顔で僕に話しかけてきたんだ。
「なぁに? アマンダさん」
「君、さっきこのお菓子を試食した時、何か物足りないような顔をしてよね?」
でね、アマンダさんはスポンジケーキを指さしながら、僕にこう言ったんだよね。
「えっ、僕、そんな顔してた?」
「ええ。焼きあがったのを一口食べた時、私の自慢の菓子を出した時と同じような顔をしてたもの。当然気付くわよ」
アマンダさんはね、さっきのスポンジケーキを作る時に自分の作ったお菓子とおんなじ物を作ろうとして、僕が入れた方がいいって思ってるものをわざわざ入れなかったんじゃないの? って言うんだ。
まぁ、アマンダさんのお菓子には入って無かったからって、ホントならスポンジケーキに入れるはずのバターをわざと入れなかったからその通りなんだけどね。
「うん。このスポンジケーキはね、生地にバターを入れるともっとおいしくなるんだよ」
「生地にバターを? なるほど、確かに香りがよくなるだろうし、バターの油分でしっとりするかもしれないわね」
アマンダさんはそう言うと、もう一回厨房に行こうとしたんだよね。
でも、それを横で聞いてたレーア姉ちゃんが、
「ねぇ、それだけじゃないんでしょ。ルディーンはバターを入れる以外にも、もっとおいしく作れるやり方があるって思ってるんじゃない?」
って急に言うもんだから慌てて立ち止まると、レーア姉ちゃんと僕の方を見たんだよね。
こんなこと言いだしたんだから多分、アマンダさんはレーア姉ちゃんが何かを知ってるんじゃないかな? って思ったんじゃないかな?
でも、レーア姉ちゃんはお菓子なんか作れないから、そんなの知ってるわけないんだよね。
だから僕、お姉ちゃんになんでそう思ったの? って聞いたんだけど、そしたら、
「だってルディーンが、そんな顔してるもん」
だって。
「本当なの? ルディーン君」
それを聞いたアマンダさんがそう聞いてきたんだけど、僕、ちょっと困っちゃったんだよね。
だってさ、生クリームを使ったのや干した果物を生地に入れるケーキはさっきお母さんが内緒ねって言ってたパンケーキにも使ってるから、教えちゃだめだもん。
ならそれ以外でって事になるんだけど……そうだ! バターだけじゃなくって、はちみつを入れたのもおいしいんだっけ。
あっ、でもはちみつを入れると甘くなりすぎちゃうからお砂糖減らさないとダメだし、どれくらい入れたらいいのかも僕、解んないんだよね。
「もしかして、聞いちゃいけない事だった?」
そんな事を考えた僕がうんうんって唸ってたら、アマンダさんが心配そうな声で聞いてきたんだ。
「あのね、お母さんにないしょねって言われた事もあるから、言っちゃダメな事もあるんだよ。でも、言ってもいい事もあるんだ」
「それはどんな内容なの?」
「えっとね、はちみつを入れてもおいしくなるんだよ。でも、そしたらお砂糖を減らさないとダメでしょ? だけど僕、はちみつをどれだけ入れていいかもわかんないし、お砂糖を減らす量も解んないんだ」
だから僕、さっき考えてたはちみつのお話もしてあげたんだけど、そしたらアマンダさんが大丈夫よ、だって。
「そういう分量に関してを試行錯誤するのは、私たち料理人の仕事ですもの。ルディーン君は思いついたことをそのまま私に教えてくれたら、自分で何とかするわ」
「そっか。だったらもう一個あるよ」
卵の黄身を増やすと味が濃くなるでしょ? だから生地に黄身だけ一個余分に入れるといいよって教えてあげたんだ。
「お母さんが朝、卵を焼いてくれた時も黄身のとこだけパンに付けた食べたらすっごくおいしいもん。スポンジケーキだって黄身を増やした方が絶対美味しいよ」
「なるほど。確かに黄身と白身を分けるのなら、そういう使い方もありね」
と言うわけでアマンダさんは僕が言った、卵の黄身を一つ増やしてはちみつを入れたスポンジケーキを試作する事にしたんだ。
厨房に引っ込んだアマンダさんなんだけど、僕たちが思ってたのよりずっと早く帰ってきたんだよね。
だから僕、作るのに失敗しちゃったのかなぁ? って思ったんだ。
「オーブンで焼くと時間がかかるでしょ? だから試しに少量をフライパンで焼いてみたのよ」
でも早く帰ってきたのは、ちゃんとしたのを作らなくてもフライパンを使って小さなホットケーキみたいにして焼けば味が解るからそうしたからなんだってさ。
「ただね、はちみつを入れたからなんだろうけどちょっと焦げてしまったのよね。それでも良ければ、ちょっと食べてくれない?」
「うん、いいよ!」
アマンダさんが持ってきたバスケットの中をのぞき込むと、ちょっと黒くなっちゃってるちっちゃなホットケーキがいっぱい入ってたんだよね。
でもね、さっき食べてみたら味はそんなに悪くなかったから試食するだけなら大丈夫なんだって。
それにね、アマンダさんが言うには今回のはちょっと焦げちゃってるけど、何度か繰り返し実験すればおいしいものが作れるはずなんだって。
と言うわけで、みんながそのちっちゃなパンケーキを手に取ってパクリ。
「あら、表面の茶色が少し濃いから苦いんじゃないかって思ったけど、これはこれで香ばしくておいしいじゃない」
そしたら真っ先にルルモアさんがこう感想を言ったんだよね。
「ありがとうございます。はちみつの味と香りが強いので、少々苦みがあってもおいしく食べられるようなんですよ」
「私、さっきのよりこっちの方が甘くて好き!」
「うん。こういう味のパンケーキもおいしいね」
でね、続けてキャリーナ姉ちゃんとレーア姉ちゃんもそう言いながらパクパク食べてうれしそう。
お姉ちゃんたちの言う通り、このパンケーキは確かにいつも焼いてるのとは全然違う味でおいしかったんだよね。
でもさ、僕には一つ、気に入らない事があるんだ。
だってこれ、食べてみたらカステラみたいだったんだもん。
だったら、焼いたふちっこには絶対あれが無いとダメだよね。
だから僕、アマンダさんにまだ生地は残ってる? って聞いたんだ。
そしたらまだ残ってるよって言ったもんだから、僕はアマンダさんと一緒に厨房に行ったんだよね。
「えっと、ほんとにこれでいいの?」
「うん! うまく行ったらもっとおいしくなると思うよ」
やってみたらフライパンにくっついてるとこはちょっと溶けちゃったけど、これはこれでおいしくできたんじゃないかな?
「生地を落とす前に少しだけ砕いた砂糖をフライパンに撒いてって言われたときは少し驚いたけど、確かにこれは面白い触感でおいしいわね」
「ねっ、おいしいでしょ?」
そう、僕が欲しかったのはカステラのふちっこについてるザラメなんだ。
これがあると、カリカリしておいしいんだよね。
そしてこのザラメはみんなにも大好評。
お姉ちゃんたちやルルモアさん、それにお母さんもおいしいおいしいって喜んで食べてくれたんだ。
題名のケーキですが、ルディーン君は真っ先に思いついたもののお母さんから生クリームや果物の事は言っちゃだめって言われてるので、言い出せませんでした。
もし作っていたらお菓子界の一大革命になっていたでしょうに。
しかし、お菓子屋さん編が終わらない
ほんとならもっとあっさりと終るはずだったんだけど、書いているうちに新しい案が浮かんでくるは、そのせいで楽しくなっちゃうは。
でも、キリがないから、とりあえず次回で終わらせるつもりです。
終わるよなぁ?w